ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

 そんなはずがない!

 ――と、クロエは叫びたかった。
 しかし、喉がひりついて声が出ない。微塵も動けずに、冷や汗が彼女の肌を滑るだけだ。
 嘘だと分かっているのに、裏切られたなんて物騒なことを言われたら、動揺を隠せない。

 頭の中では継母が彼女を嵌めたのだと確信している。
 どうせ手下の者を自分の部屋に忍び込ませて、そしてマリアンの部屋に置いたのだろう。

 ……でも、その証拠がない。すぐには用意できない。
 クロエがいくら反論をしても、証明できなければ徒労に終わるだろう。

(どうすれば……)

 クリスは困ったように肩を竦めて、

「本当はこんなことしたくなかったのだけれど、侯爵夫人としての責任があるから仕方ないわね。大事な娘のものを盗むなんて、母親として見逃すことはできないもの。……それに、主としてけじめをつけなければいけないわ」

(どの口がそんなことを言うの!)

 汚く罵りたい気分だが、ぐっと飲み込む。

 この状況ではあまりに不利だ。クロエの行動こそ不条理になる。
 なぜなら、優しい母親が娘の私物を盗難した侍女に怒って折檻をする……といった状況が成立しているのだ。
 侯爵家の人間として、これに反論するとなると、「侯爵令嬢は使用人の窃盗を容認する愚か者」だと喧伝していることになる。
 それは不味い。高位貴族がそんな非道徳な行いをするのは許されない。
 どこからか漏れて、家の評判に関わることもあり得るかもしれない。
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