小児科医は癒やしの司書に愛を囁く

「じゃあ、お先に失礼します」

「ああ、原田君。明日例のカンファレンス朝からする予定だよ。よろしく頼む」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」
 
 なんか拍子抜けした。

 確かに佳奈美さんはその気だったが、院長は縁談破棄に同意されていたようだ。それに……弘樹先生の様子が変。眉間にしわを寄せて黙っている。

 ご実家も病院だったんだ。まあ、親が医者という先生が多いけれど、どうしてここにお勤めされているのかしら?

 それならご実家の病院で働いた方がいいんじゃないかというような気がするけれど……。

 私って、そう思うと全然先生のこと知らないんだなと今更ながらに痛感した。

 高村先輩の言うとおりかもしれない。知り合って間もない、よく知りもしない医者と同居するなんてと言われてあのときは腹が立ったけど、よく考えたらその通りじゃないの。

 ふたりで黙ったまま歩いて行き、エレベーターホールの前まで来た。

「……あ、悪い。とにかく縁談はなくなったと思っていいだろう。助かったよ、美鈴」

「私はこの場にいなくても大丈夫だったと思います。院長先生はすでに破談に同意されていたんですか?」

「ああ。でも佳奈美さんのために君と同席して欲しいって院長から頼まれたんだよ。だからこれで良かったんだ。その時、君の柊さんの問題も一緒に話したんだ」

「そうだったんですね」

「そうだよ……それをきっかけに同居させたって……あ、何でもない」

 なんて言ったの?小さい声で言っているからよく聞こえなかった。
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