会ったことのない元旦那様。「離縁する。新しい妻を連れて帰るまでに屋敷から出て行け」と言われましても、私達はすでに離縁済みですよ。それに、出て行くのはあなたの方です。
「クレイグ様、嫌です」

 彼のごついけれどやさしい顔を見上げ、言葉を絞り出した。

「わたしだけがしあわせになるなんて、ぜったいに嫌です。しあわせになるのなら、あなたと子どもたち。そして、このリミントン王国のすべての人たちもです」

 祖国が滅ぼされて以来、さまざまな国や地域をたらいまわしにされた。そのどこでも悪いことや不幸な出来事はあるばかりで、けっしていいことや幸運なことはなかった。

 このリミントン王国だけである。わたしにいいことや幸運を与えてくれたのは。
< 126 / 128 >

この作品をシェア

pagetop