極悪人の抱き枕になりました。
「アロマを準備してみたの。きっと、よく眠れると思うから」


そう言うと伊吹は驚いた顔で振り向いた。


「そういえばお前は調香師だったか」

「うん。一応はね」


まだ駆け出しだけれど、一応自分の店も構えている。
4畳ほどの小さな塩浦で、お客さんの要望に合わせて香りをブレンドする。

できたての香水を身に着けて嬉しそうに帰っていくお客さんを見るのが夏波の一番の幸せだった。


「そうか。わざわざ悪いな」


どうしてそんな風に自分のことを気にかけてくれるのかわからなくて首をかしげる。
借金のカタでここへ来たはずなのに、今のところ伊吹は自分になにもしてこない。

ただ仕事が忙しいだけなのかもしれないけれど、夏波の気持ちはだんだん緊張感が薄れてきていた。


「じゃ、おやすみ」


伊吹はそう言うと今日も1人で寝室に入ってドアを閉めたのだった。
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