極悪人の抱き枕になりました。
☆☆☆

金髪男が暮らしているというマンションの一室へ連れ込まれても夏波にはまだ実感がなかった。
母親の借金のために売られた娘。

そんなことが今の世の中で起こるはずがない。
これはきっとドッキリかなにかだ。

部屋に入れば先回りした母親が待っているかもしれない。
そんな淡い期待は打ち砕かれて、部屋には誰もいなかった。

白を貴重とした部屋は眩しいくらいで、想像よりもずっと片付いていた。
というよりも、生活感がなかった。


「本当にここで暮らしてるの?」

「あぁ。帰ってきて眠るだけだけどな」


だからこんなにも寒々しく感じる部屋になったみたいだ。
金髪男は手始めに部屋を案内してくれた。
トイレもバスルームもキッチンも、ほとんど使ってないと言われても納得してしまうくらい綺麗だ。


「こっちが寝室だ」


そう言われて夏波の心臓がドキリとする。
借金のカタに売られてきた自分が、これからどういう役目を果たすのか、理解しているつもりだった。

きっと、寝室は自分が一番使うことになるであろう場所だ。
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