極悪人の抱き枕になりました。
「理由は聞かなくてもわかてるはずだ」


そう言うと伊吹は夏波のバッグを取り上げた。
仕事用のバッグだから大きめで、中には色々と入っている。

伊吹はその中から白いスマホだけを取り出すと、後は夏波に投げ返してきた。
夏波はカバンを両手でキャッチすると、仏頂面で伊吹を見つめた。

伊吹は夏波のスマホの電源を落とすと、ズボンのポケットに入れてしまったのだ。
これじゃ取り返すことは難しそうだ。

夏波はそっとため息を吐き出した。
まさか、自分が25歳にもなってこんなことに巻き込まれるなんて思ってもいなかった。


「それじゃ俺は出かける。セキュリティシステムを作動しておくから、外へ出たらすぐにわかるからな。家の中のものなら好きに使っていい」


伊吹は早口に説明すると忙しそうに部屋を出ていってしまった。
その後すぐにピッと機械的な音が聞こえてきた。

きっとセキュリティシステムが作動したんだろう。
ひとりになった夏波は大きく息を吐き出してリビングのソファに座り込んだ。

体力を使うようなことはしていないはずなのに、体がずっしりと重たい。
ソファに横になって少しだけ目を閉じてみると、すぐに夢の中へ引きずり込まれてしまったのだった。
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