婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける
「彼の目的は何? 今だそのお考えが読めない」
「どうされたのか? サラタ殿」
「いえ、貴方のお耳に入れるほどのことではありませんが」

 いつの間にか帰ってきたのか。つまらない独り言を聞かれてしまった。

「それよりどうか? この生活は貴女にとって不自由なものに違いが無いだろう。不満があれば、素直に答えて欲しい」
「答えれば、どうなさるので?」
「無論のこと、改善に励むだけだ。我々は共同体、貴女の苦しみは俺の心にも通じる」
「ご冗談がお好きなようで。私が苦しんでいるなどと、本気で思っていらっしゃるのですか?」

 私の言葉に思わず笑ったウイル様。しかし、その瞳に嘘偽りは無いように見える。
 だからこそ、私は彼を信頼しているのだ。その油断無き眼差しに刺されるのも心地よくなってきていた。

「この屋敷も悪く無い、貴女が居て俺が過ごせる場所は、王宮に優る。満足しているさ」
「穴の空いた床を塞ぎ、年代物のベッドに襤褸の布を敷いただけの寝床でもよろしいと?」
「そうだな、シーツは流石に新調したいか。今度織ってみよう」
「それならば私が。既に済ませておきましたので、今日よりどうぞお(くつろ)ぎを」
「貴女は仕事が早い。俺という矮小さが浮き彫りになるな」
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