婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける
 そこは、玉座の間。
 このような時間に誰もいるはずが無いその場所に、一人の高貴が座っておられた。
 体を黒い影に蝕まれながらも、堂々と剣を床に突き立てて、正しく王が君臨していた。

「……来たか、サラタ嬢」
「何故です? 影は、何もしなければ無害。気分の悪い夢を見せるばかりのものでしかない。それを知らないはずがありません」
「ふん、この老骨を心配してくれるのか? それも、あのような愚物の父親を」

 何故、命を落とす真似をなさるのか? 私にはわからなかった。

「時代は流れた。世継ぎがあれでは……。天が告げているのだ、この血の終焉を、な」

 そのお顔は皺だらけで、だからこそ威厳の凝り固まった御尊顔。
 そのお顔は笑みを浮かべる事は無く、しかし今、実に朗らかだった。
 何の悔いも無い、そのような御尊顔。

「行くといい。其方は、自由を振る舞えばよいのだ」
「……よろしいのですね?」

 王は何も答えない。
 全身が影で覆われ、顔を覆い尽くそうとしたその瞬間、笑ったような気がした。
 もうここには誰もいない、私以外は。
 
 ここを去ろう。
 そう思ったけれど、最後にふと、行きたい場所が頭に浮かんだ。
 私には、まだ欲があったのか。

 その場所へと、足が動いた。

 何故だろう? 手の中のペンダントが光った気がした。
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