婚約とは安寧では無いと気付いた令嬢は、森の奥で幸せを見つける
「こちらにお顔を拝見させて頂きたい」

 振り向けば、そこにいたのは。……どちら様?

「この俺に、いえ、貴女がお気になさらないなら仕方がない」
「失礼ながら、見ての通りの女です。お声を掛ける相手はこの森になぞいらっしゃらないはず」
「そんな、そんな事は無い! 俺が、俺がここにッ!!」

 その見目の良い殿方は必死だった。

「落ち着きになられて。貴方様の気安いお言葉でお声を下されば結構。
私はただ、森の木に過ぎません」

 そう言うと、少しだけ落ち着いた様子を見せた。

「では、まずはお名前を。そしてこの私に何か御用でも?」
「え、ああ。俺は……」
「はい、何でしょうか?」
「ウイル。……そう、ウイル・ティリーク。この森に立ち寄った男だ」
「そのティリーク様がどのような気まぐれで、このウドにお声を?」
「そうような卑下はご遠慮願いたい。貴女は木は木でも立派な大樹であるはずだ。それに、貴女は聖女。ならばその身に宿すは、精霊や神霊に近い力ではないのか」
「ふむ、どうでしょう? それは、そのようにお考えになられるのは、私が魔女だからですか?」
「違う。……貴女は美しい」

 (たわむ)れの言葉を下さったその殿方の容姿は、(まさ)しく美麗だ。
 袖から、首元から覗かせる白磁の肌に透ける様な水色髪。切れ長の目元からは鋭い眼光が覗く。
 その口元は微笑みを称えているが、どこか冷徹に映る。まるで氷の彫像のような美しさだ。
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