恋愛体質
「すみません。」

エレベーターのドアが開くと佐藤さんが携帯を見ながら待っていた。

「行くよ。」

佐藤さんは私をちらりと見てから歩きだした。

メトロの入口まで黙々と歩いた。佐藤さんは相変わらず早足で、私はついていくのに必死だった。

1メートルほど先にいた佐藤さんが立ち止まり急に振り返った。

「そういえば足、大丈夫?」

「はい。大丈夫です。」

「痛かったらいえよ。無理するなよ。後になって歩けないなんて言われても困るから。」

「はい。あの・・・」

「何?」

「ちょっとだけゆっくり歩いてもらえませんか?」

息を整えながら言った。

「足が痛いんじゃなくて追いつけない・・・」

「そっか。ごめん。」

佐藤さんは心持ちテンポを落として歩きだした。

通勤時間の過ぎた電車は比較的空いてはいるが座席は埋まっていた。佐藤さんは電車に乗ってから先頭車両の方に移動した。

「座りなよ。」

1人座れるくらい空いているシートを見つけた佐藤さんが言った。

「佐藤さんどうぞ。」

「いいから、ほら。」

促されて私は座席に座った。ありがたいけれど落ち着かなかった。先輩を立たせて自分だけちゃっかり座るなんて。

でもわざわざ空いている席を見つけて座らせてくれたことがうれしかった。
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