拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

 王宮の倉庫にあった現在使われていない机が用意されていた。良かった。これで彼女もより寛ぐことが出来るな。離れたところで私も本を読む。そしてたまに彼女を見ると難しそうに眉に皺を寄せたり、何か閃いた顔をしてみたりと可愛らしく表情をコロコロと変える。可愛い子だ。そう思うようになった。





「ほぅ、グレイが令嬢をみつめておるのぅ」

 背後から声が聞こえてビクッとする。

「なっ、へ、陛下!」

「これ、静かにせんかい! 出入り禁止にするぞ」

 しまった。と思い口を閉じ頭を下げる。

「彼女はモルヴァン伯爵の令嬢でリュシエンヌ嬢じゃ。古代文字を趣味にしておる。伯爵家は鉱山を所持しておって、国内の地盤について調べていたら昔の事も知りたくなったんじゃ。それで古代語に興味を持ってだなぁ、」
「陛下はなぜ彼女、モルヴァン嬢に詳しいのですか? もしかしてストーカ、」
「お前と一緒にするな! でかい男がコソコソと若い令嬢を見つめて気持ちの悪いやつじゃ!」

 側から見たらそう見えるのか!

「なっ、」

「間違ってはおらんじゃろう? ソファや、机を用意してやったのはわしじゃぞ! モルヴァン嬢のような令嬢が来るのなら確かに落ち着く場所は必要じゃな。その優しさを本人に見せないと意味ないぞ?」


「……あの年頃の令嬢なら婚約者がいてもおかしくないでしょうし、図書館で声をかけられませんよ。それにこんな図体の恐ろしい顔をした、」
「面倒臭いやつだなお前は。彼女に婚約者はおらん! それに彼女は容姿を気にするような子ではない。以前お前に教えた本を彼女にも渡したらそれはそれは喜んでいた。きっかけは自分で作れよ。ウジウジするくらいなら彼女に近寄るな。それだけは忠告するぞ」

 ポンと肩を叩いて戻っていった。神出鬼没な方だ。最後の方は完全にプライベートの口調になっていたな……

 それにしてもなんであんなに彼女の事に詳しいのだろうか? モルヴァン伯爵家のリュシエンヌ嬢か……

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