拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

傘の持ち主


「リュシーあの傘の持ち主が分かったぞ」

 翌日お父様に呼ばれて傘の持ち主が分かったと聞かされましたわ。

「黒い布に黒い刺繍だなんてオシャレがすぎるよ。しかもさり気ないわけでもないし、良くみないと刺繍がしてあるなんて分からない。大変だったよ」


 刺繍の部分に白い粉を振りかけて家紋を浮き上がらせて判明したそうです。それから丹念に白い粉を取ったようで、この作業に苦労したようです。元通りにしなくてはいけないのに、粉がどうしても残ってしまいあらゆる手段でようやく元通りにしたとか? 後で関わった皆さんにお礼を言っておきましょう。

「お世話をかけてしまい申し訳ございませんでした。さすがお父様ですわ」

 パチパチパチパチと手を叩いてお父様に感謝を見せる。私一人じゃ途方に暮れていて毎日王都で騎士様を探し回っていたかもしれませんもの!

「家紋が出てきた時は驚いたよ。まさか鷲のマークが出てくるとは……」

「鷲……」

 ……鷲といえば、王家にまつわる家系ということでは?! あの方が?


「鷲のマークといっても何軒かかありその中の一軒なんだけど、微妙な違いがあってな……公爵家の家紋であることが分かったぞ。リュシーがお会いしたのは、アルヌール公爵家の次男グレイソン・エル・アルヌール閣下だと思う。騎士団に所属していて数ヶ月前に王都へ帰還、身長の高い体躯の良い方だ」

 長男様は公爵家を継いでいらして、お姉様は他国へ嫁がれているのだそうです。

「傘をお返ししたいのですが、お父様にお願いしてもよろしいですか?」

「良いけど、お礼は自分でした方が良いと思うぞ」

「はい。出来るのならそうしたいのですが、私のような者が閣下の周りを彷徨くのを奥様が嫌がられるのじゃないかと思いまして……」

 年齢的にもご結婚されているわよね? 20代後半という感じがしましたわ。それに公爵家の方に粗相があっては困りますもの。

「閣下は独身だよ。婚約者の有無までは分からないけれど、確かに騎士団へ行くにはリュシー一人じゃ勇気がいるよな。私が付いていけるなら行くが、ハリスでも連れて行くか? リュシーだけだと心配だし」

 最近ハリスはしっかり者になってきて、頼もしいものね。でも……

「お父様、失礼ですわね! 心配はご無用ですわ。騎士団へ行けばお会いできるのならば週末に行ってきますわ」

「ハリスを連れて行くか?」

 ハリス推しですの?

「一人で大丈夫ですわ。メイドも連れて行きますわ」

「王宮内で粗相する命知らずな者はいないだろうから大丈夫だろう。一人での行動は禁止だよ。護衛も連れて行くように」

「分かりましたわ」

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