ハイドアンドシーク
「大変だったな、お前も」
人通りの少ない廊下。
補習いけなくてすみませんでした!
と、しじみ汁を差し出しながら謝ったわたしに返ってきたのは、そんな意外な言葉だった。
「お、怒ってないんですか?」
「そこまで人間やめちゃいねえよ。ほら、これ手間賃」
「え、あ、千円、」
「しじみ汁はお前が飲め。うまいし鉄分も摂れるぞ」
あれよあれよ、財布から出てきた千円としじみ汁を逆に受け取ってしまう。
「……とにかく、無事で良かったよ。連絡来たときは肝が冷えたけどな。なんか文章も支離滅裂だし」
「あはは……」
じつは脱衣所に引きこもっている間に、先生にメッセージを送った。
学校の近くでアルファに襲われたこと、とくに怪我はないこと、補習にはいけそうにないことを。
ヒートに侵されつつある頭で、思いつくがままに。
「男だったから、まさか、襲われるなんて思わなくて」
馬鹿野郎、と先生は言った。
「オメガに男も女も関係ないんだよ」
「はい、身をもって知りました……」