婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 ギルド職員は、エーリヒが移民のクロエを魔石作りのために利用していると勘違いしたのだ。
 そのとき治癒魔法をかけながら、たしかにクロエは強く願った。
 治りますように。
 そして、もうエーリヒが傷つきませんように、と。
「まさか、そのせいで?」
「……それしか考えられない」
 エーリヒはキッチンからナイフを取り出すと、無造作に腕に突き刺そうとした。
「ま、待って!」
 いくら何でも無謀すぎる。
 慌てて止めようとしたが、ナイフはエーリヒの肌を傷付けることはできずに弾かれてしまった。
「……」
「………」
 ふたりは顔を見合わせて黙り込む。
 まさかクロエも、自分の力がこれほど強力だとは思わなかった。
「右腕、だけ?」
「あのとき魔法で治してもらったのは右腕だけだから、おそらくは」
「……試さないでね」
 ナイフを持ち直そうとしたエーリヒを止めて、とりあえず落ち着こうとふたりで椅子に座った。
「まだスープが温かいうちに食べた方がいい」
 エーリヒにそう言われて、まずは買ってきてもらったサンドイッチと野菜スープを食べることにした。
 サンドイッチは、クロエの一番好きなハムとチーズのもの。
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