婚約破棄されたので、好きにすることにした。
「そこは頬を赤らめて、悲鳴を上げるところだと思うのですが」
「……そんな気力もなかったわ」
 エーリヒは旅の剣士のような服装をすると、大きな布袋から、魔導師が着るようなローブを取り出した。
「お嬢様もこれに着替えてください。さすがにドレスは目立ちますので」
 用意がよすぎる彼を、思わず不審そうな目で見てしまう。
 だが、目立てばそれだけ見つかる危険性が高まる。仕方なく差し出されたローブを受け取った。
「お嬢様も見たんだから、俺も着替えを見ていいですか?」
「いいわけないでしょう!」
 思わずクロエではあり得ない口調で怒鳴ると、エーリヒは驚いた素振りも見せずに、残念そうに後ろを向いた。
「ちゃんと見張っていますから、大丈夫です」
「……絶対に振り向かないでね」
 誰も見ていないとはいえ、まさか外で着替えをすることになるとは思わなかった。
(でも好都合じゃない? エーリヒなら女性を見下すこともないし、腕も立つわ。向こうが私に便乗したって言うなら、王都を出るまで、傍にいてもらおうかな?)
 まさか、こんな極上品が落ちているとは思わなかった。
 しかも着替えまで用意してくれたなんて。
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