婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 クロエはさっさとドレスからローブに着替えると、後ろを向いたままのエーリヒに声を掛けた。
「ありがとう。もういいわ」
 彼は振り返り、ひとりでさっさと着替えた様子に少し驚いたようだ。
「これ、どうやって着るの、とか言われるのを期待していたんですが」
「何を言っているの。エーリヒ、ちょっと性格変わっていない?」
 氷の騎士の名にふさわしい、もっとクールで影のある感じだったような気がする。
「そういうお嬢様こそ、婚約を解消されたときとは比べものになりませんよ。あれは芝居ですか?」
「まぁ、そんな感じかな?」
 まさか前世の記憶が蘇りました、なんて言えない。
 あいまいに誤魔化すと、彼は大袈裟に驚いて、舞台女優になれるんじゃないですかと笑った。
「さて、これからどうするつもりですか?」
「闇市場で、宝石を売ろうと思っていたの」
「奇遇ですね。俺もそうです。王女殿下から頂いたものですが、まったく好みではないので」
「……」
 エーリヒはよほど、王女が嫌いだったらしい。
「とても可愛らしい方だったと思うけれど」
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