婚約破棄されたので、好きにすることにした。
「私はエーリヒのものだよ。だから、国籍を得られるように頑張って、早く結婚しよう?」
「ああ、そうだな」
 それを聞いたエーリヒが、見慣れてきたクロエさえも赤面してするような、蕩けるような笑顔で頷いた。
 周囲の女性達から悲鳴のような声が上がったのを聞いて、言わなければよかったと後悔する。エーリヒが笑顔を向けるのはクロエにだけ。
 だからクロエだけの笑顔だ。
 誰にも見せるものかと、隠すようにして抱きついた。

「エーリヒに、話さなくてはいけないことがあるの」
 ふたりの家に戻ったあと、クロエはそう切り出した。
 勢いとはいえ、結婚の話まで出したのだから、さすがに話さないわけにはいかなかいだろう。
 結婚の話をしてからずっと上機嫌なエーリヒは、クロエの改まった声に不思議そうに首を傾げる。
「俺に?」
「うん。私の愛はふたり分だって言ったでしょう?」
 不安を押し隠し、わざと明るくそう言うと、エーリヒは頷いた。
「それだけ愛してくれているのかなと思っていたけど、違う意味があった?」
「ええと……」
 いざ話すとなると緊張する。
 拒絶されたらと思うと、少し怖かった。
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