婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 そして以前のクロエなら、きっとそんな状況に耐えられずに、間違いなくエーリヒの後を追っていた。
 もしかしたらそれは、クロエが前世を思い出さなかったら、訪れていた未来だったかもしれない。
「……本当に、逃げてよかった」
「そうだね。まさかふたりで、こんなふうに一緒に暮らせるなんて、思ってもみなかった」
 幸せそうに、エーリヒは笑う。
 今まで自由などなかった彼が、こうしてクロエの隣で笑ってくれることが嬉しかった。
「一緒に暮らすようになって、クロエは昔と少し違っているように見えた。だから婚約破棄のショックで記憶を失い、代わりに魔力に目覚めたのではないかと思っていた。クロエの話したいことは、これだった?」
 そう尋ねられ、覚悟を決めて頷く。
「うん。大体はそう。ただ、もう少し話したいことがあって」
 クロエのために命まで賭けようとしてくれた彼に、これ以上黙っていることはできない。
「実はあのとき、私は前世の記憶を思い出したの」
「前世?」
 その答えは想像もしていなかったようで、エーリヒは驚いたように聞き返した。
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