婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 エーリヒなら剣の腕も確かだし、何よりも幼い頃からよく知っている相手である。彼が王女に見初められ、近衛騎士として王城に移動してしまったとき、「クロエ」はとても悲しんだ。
 それに彼ならば、クロエに何かを強要することはないだろう。
「ええ、いいわ。でもお嬢様はやめて。これからは相棒なんだから、クロエと呼んでほしいの。敬語もなしよ」
 エーリヒはそんなクロエを見つめると、見惚れるほど綺麗な笑みを浮かべた。
「わかった。クロエ、ふたりで行こうか」
 婚約を破棄したので、これからは好きに生きようと思う。
 相棒となった、彼と一緒に。
 これからの未来を夢見て、クロエは微笑んだ。

 その日はふたりで小さな宿に泊まり、翌日に行動を開始することにした。
 だが、もう時間が遅かったこともあり、部屋はひとつしか空いていなかった。
「え、ひとつだけ?」
 動揺するクロエの前で、エーリヒはあっさりとそれを承諾して、前払いで料金を支払っている。
「待って、本当に同じ部屋に泊まるの?」
「何をいまさら。お互いに着替えまで見せあった仲なのに」
「変なこと言わないでよ!」
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