婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 お互い、ようやく籠の中から抜け出すことができて、少し気が抜けたのかもしれない。
「おはよう、エーリヒ」
 化粧を落として、ぼんやりとした印象がますます強まった顔でそう言う。
 朝陽に煌く銀髪に少し寝ぐせをつけたエーリヒが、寝惚けた顔のまま、おはようと返した。
「ひさしぶりにゆっくり寝た。監視がないって素晴らしいな」
 そう言って立ち上がり、目の前で着替えをしだした。
「!」
 クロエは慌てて顔を逸らした。
(もう、急に着替えるのだけは、やめて欲しいわ)
 騎士らしくない白い肌だったが、その身体はさすがに鍛えられていた。
「朝食を買ってくる。何がいい?」
「えっと、サンドイッチとフルーツを」
「わかった。すぐに戻る」
 旅の剣士のような服装をしたエーリヒは、そう言って部屋を出て行った。クロエも、その間に慌てて着替えをする。
(同室なのは、まぁいいけど。宿の節約にもなるし。でも着替えのときだけ、ちょっと困るかなぁ)
 そう思いながら持ち出した荷物を整理していると、うんざりとした顔をしたエーリヒが戻ってきた。
「おかえりなさい。どうしたの?」
「しつこい女がいた」
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