婚約破棄されたので、好きにすることにした。
「それは、もちろんあるさ。婚約を解消されたといっても、キリフ殿下が感情的にそう口にしただけのこと。そもそも王族の婚約を、そう簡単に解消できるはずがない。決めるのはキリフ殿下ではなく国王陛下だ」
「……うん、そうね」
 言われてみれば、彼の言う通りだ。
 これは侯爵家の娘と、第二王子の婚約である。クロエの意志はもちろん、キリフの意志だって関係のないことだ。
「それにキリフ殿下は、クロエが自分に夢中だと思っているから、捨てないでほしいと泣き叫んでほしかったと思うよ」
「え?」
 まさかの答えに、クロエは不快そうに表情を歪める。
「そんなことしないわ。だって私は別に、キリフ殿下が好きだったわけではないもの。ただお父様が怖かったから従っていただけよ。それに、自分はあんなに綺麗な人を連れていたのに」
 いくら政略的な結婚とはいえ、婚約者であるクロエに見向きもせず、堂々と恋人を連れて歩いていた。
 それなのに、どうして愛されていると思っているのだろうか。
「本当に私がキリフ殿下を好きだったとしても、あんな扱いをされたら一気に冷めるわ」
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