婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 さらに間が悪いことに、彼女はお気に入りの近衛騎士に逃げられて、かなり不機嫌だった。だったら言葉通りにしてあげると、声を封じられてしまった。
 あれから三日が経過しているというのに、まだ声が出ない。かなり機嫌を損ねてしまったようだ。
 だが今回の件はあきらかに、キリフの言いがかりなどではない。
 こんなことができるのは、カサンドラしかいない。この国の魔女は、彼女ひとりなのだから。
 しかも心労のせいか、心なしか抜け毛が増えてきた気がする。
(くそっ。あのとき、クロエさえ逃げ出さなければ……)
 自分が婚約の解消を言い出したせいで、こうなったことなど綺麗に忘れて、キリフは部屋の中を歩き回った。
 まだ声は出そうになかった。


幕間 クロエの父、メルティガル侯爵の誤算

 メルティガル侯爵家の当主アレクサンダは、娘の身を案じる妻の泣き声に苛立って、机を殴りつけた。
 鈍い音が響き渡り、妻のリディは怯えたような瞳で夫を見上げている。それでも長年の経験で、これ以上夫を怒らせてはいけないと悟ったのだろう。
 何も言わずに静かに部屋を出て行った。
< 40 / 266 >

この作品をシェア

pagetop