婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 こんなときに泣くことしかできない女など、このメルティガル侯爵家に必要はない。
(役立たずの母親は、やはり役立たずか)
 娘のことを思い出すと、また怒りがこみあげてくる。
 数日前に王城で開かれたのは、若い貴族だけが参加する夜会だった。
 だから参加していた貴族の数も、そう多くはない。
 それなのに翌日には、メルティガル侯爵家の娘が第二王子に婚約を解消されたという話が広がっていた。
 このメルティガル侯爵家は王立騎士団の団長を歴任し、この国の軍事力を一手に担っている。
 歴代の当主は、有事の際には命を懸けてこの国を守ってきたのだ。
 今は国家間の戦争がなくなって久しいが、それでも国内で反乱があれば、直ちに鎮圧してみせると自負している。
 そのメルティガル侯爵家の娘が、たかが愛妾が産んだ第二王子に婚約を解消されたのだ。
 恥さらしめ、と唸るように言い捨てて、アレクサンダは机の上に置かれていた書類の山をなぎ倒した。
 そもそもこの婚約は、王との契約だった。
 アレクサンダには、子どもが三人いる。
 正妻が産んだ長男の十九歳のマクシミリアンと、十七歳になった娘のクロエ。
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