婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 クロエは自分に自信がなくて地味な服装ばかりしていたが、この姿ならばおしゃれを楽しんでみるのもよさそうだ。
「家は見つかった?」
「ああ。少し手間取ったが、ちょうど良い物件が見つかった」
 そう言ってエーリヒが手渡してくれたのは、今日の夕食だ。
 鶏肉っぽい揚げ物を挟んだパンに、果物。サラダもあった。
「おいしそう。まだ温かいね」
「冷めないうちに食べたほうがいい」
「うん、ありがとう」
 テーブルに座って、まずは食事を楽しむ。
 食後のお茶を飲みながら、彼が探してきてくれた物件の話を聞いた。
「少し大通りから離れているが、大きな広場や公園があって自然が豊かだ。家は狭いが、ふたりで暮らすには充分だろう。周囲は若い夫婦が多くて、治安もそう悪くはない」
「そうなんだ。いいところみたいね」
「クロエと一緒に見てから決めたほうがいいと思って、まだ契約はしていない。明日、一緒に見に行こう」
「ありがとう。楽しみだわ」
 エーリヒは、貴族の令嬢がいきなり冒険者になるよりも、庶民として暮らしてみた方がいいと言っていた。
 でも今のクロエは前世の記憶が蘇り、むしろその記憶の方が強くなっている。
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