婚約破棄されたので、好きにすることにした。
 もともと平凡な日本人だったのだ。
 今だったら侯爵令嬢として大きな屋敷で住むよりも、小さな家で一般市民として暮らす方がずっと楽かもしれないと思う。
 エーリヒが探してきてくれた家は、たしかに住みやすそうな場所だった。
 少し古い家らしいが、外装は塗り直しをしているらしく、とても綺麗に見える。床も張り直しているようだ。
(部屋も綺麗。リビングに寝室。キッチンもある。ちょっと狭いけど、いずれ王都から出るんだから、荷物は増やさないほうがいいよね)
 大通りから離れてはいるが、近所に食料品と日常品を売る店、そしておいしくて安い食堂がある。
 普段の買い物ならここで充分だ。さらに大きな公園には散歩コースがあり、運動不足の解消にもよさそうだ。
 近所も、同い年くらいの夫婦が多かった。
 この区画は主に家族用に売り出しているようで、結婚したばかりの人が多い。
「うん、私もここがいいと思う」
 気に入ったかと聞かれて、クロエは頷いた。
 ここで、新しい生活が始まる。
 やりたいことはたくさんあった。
(でも、あまり浮かれていては駄目。追われているということを、忘れないようにしなくちゃ)
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