ヒスイのさがしもの
つい消しゴムを手に取って、カバーをずらして見た。本当に、無意識だったというくらいに、何も考えてなんていなかった。強いて言えば、昔流行っていたおまじないが思い浮かんではいたかもしれない。
ーー消しゴムに好きな人の名前を書いて使い切れば、恋が叶う。
しかし、トウマの消しゴムに書いてあったのは文字じゃなかった。けれど。けれど、どうしてこれが書いてあるんだろう。
「わからないかい、ヒスイ」
「え……」
「君は大切なことを忘れているよ。いや、忘れさせられてしまっている」
心臓が大きく鳴るのを感じる。大切なことってーーなんだっけ。
「……返してもらうよう、頼むといい」
「だ、誰に、ですか」
「君を呪っているモノに」
ーーどういうこと? ウツギさんが言ったことが何を示しているのか、それを必死に考える。
ウツギさんはそんな私を一瞥すると、背を向けてしまった。
「私は少し、休むよ」
ウツギさんの目の前の大樹が、人ひとり分ほどの空間を作る。ウツギさんがそこへ入ると、入り口は閉ざされてしまった。
私は何を忘れていて、そうさせたのは何者なんだろう。
……思い出せない。わからない。
「トウマは、なにか知ってるの……?」
祈りのようにひとりごちても、それは誰にも届かず消えるだけ。
視線を落とした先、手のひらの上の消しゴムには、雫の中に小さな丸の入ったマークが描かれている。ーーそれは、私の大切なヘアピンとまったく同じかたちだった。