前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

4、義務

「まぁまぁ、ルティア様。ようこそお出でくださいました」

 朝食を済ませて孤児院を訪れると、毎回責任者の人たちは恐縮した様子で接してくる。ルティアは逆に気を遣わせて申し訳ないと思いながら、箱につめて持ってきた衣服や本を従者に運ばせる。古いものもあるが、ほとんどは新品のものだ。

「本当に助かりますわ」
「お金の方は足りているかしら?」

 孤児院のほとんどは寄付金で運営されている。もし苦しければ、食費を切りつめることになる。育ち盛りの子どもたちにとって、それは辛いことだろう。

「ええ、もう十分ですわ」
「なら、いいんだけれど……何か不足のものがあれば、遠慮せず言ってちょうだい」

(我慢させて、子どもたちの将来を不安なものにしたくない)

 そう思って心から伝えると、なぜか女性は優しい目をしてルティアを見つめた。

「お嬢様は本当にお優しい方ですね」
「……わたしは自分のすべきことをしているだけです」

 高貴な身分に生まれたからには、果たすべき役割がある。前世で果たせなかったぶん、今回は責任を全うしたい。

(まだ全然、果たせていないわ)

 できれば国中の孤児院や救貧院を慰問したいが、それはさすがに無理だ。けれどもどかしい気持ちは常に抱いていた。

「老婆心ながら、ルティア様はもう少し、肩の力を抜いても構わないと思いますわ」
「心配してくれてありがとうございます。でも、本当に無理はしていません」
「そうですか?」
「はい」

 女性はまだ何か言いたそうな様子だったが、「お姉ちゃん、あそぼ?」と子どもたちが集まってきたので、話はそれで終わりとなった。

「なにして遊ぶの?」
「おままごと」
「いいわよ」

 最初は子どもたちとどう接していいかわからなかったが、今はずいぶんと打ち解けたと思う。

(本当に、無理なんてしていないの)

 食事を振る舞って、お腹いっぱいになった子どもたちと遊んで、お昼寝して、メイドと一緒に作った焼き菓子を渡して、ありがとう、また遊ぼうね、と約束してくれる子どもたちの姿を見ることが、どうしようもなく眩しい。守りたい、と思う。

(あの時は守れなかったから……)
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