前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

23、離宮

 二週間の期限はとうとう明日で終わる。

 でもテオバルトはルティアに新たな提案をして、ルティアを悩ませ、ルティアが答えを決めかねることで期限を――結果自体を変えようとしている。

 もしあれがすべて演技であったら、ルティアも迷いなく、すぐに断った。だがテオバルトは本気だ。だからこそ、ルティアは罪悪感を抱き、答えを出せずにいる。

(記憶のことを、思いきって尋ねてみようかしら……)

 いろいろ考え、結局ルティアが最後に引っかかるのはテオバルトが前世で自分を殺したことだ。女王アリーセを殺した彼は彼女のことを憎んでいたのか。憎んでいたならば、どうして。彼は一体自分の何に怒りを抱いたのか。

(何か、事情があったのなら……)

 いや、それでも、と思う。
 彼は前世で殺した女を愛することになる。記憶がない彼がその道を選ぶのは、まるで騙し打ちのようにルティアには感じられた。

(いっそのこと、すべてを打ち明ける?)

 自分は前世悪逆を尽くした女王で、最期はあなたに止めを刺されたのだと。

(ううん。そんなこと言えば、殿下の心を気に病ませてしまう)

 前世の自分が悪女だったことも知られるのが怖い。そもそも信じてもらえるかも怪しい。
 悩めば悩むほど、結論は出なかった。

(やっぱり、修道院へ入るのがわたしの運命かもしれない)

 でも……と同じことをずっと悶々と考えている。我ながら煮え切らない態度に苛立つも、これも前世の記憶を持って生まれてきた定めかもしれない、とも思った。

「ルティア嬢!」

 王宮の廊下を歩いていたルティアは元気な声に顔を上げる。テオバルトの知り合いである貴族の青年とその妹である令嬢だった。

「ちょうどよかった」
「今日も殿下と会うお約束をしていたのでしょう?」
「ええ。でも少し早く来てしまって、時間まで王宮の図書室で過ごそうかと考えていたんです」

 なのでいつも出迎えてくれる護衛はいなかった。テオバルトは不用心だと注意するかもしれないが、王宮で何か起こるとは思っていなかった。前世と違い、この世界は戦争もなく、王家も安泰している。それにルティア個人の護衛をはついていなくても、王宮内を警備する兵はあちこちにいたので、何かあっても彼らに助けを求めればいい。

「そうだったんですか。ですが、それは少し困りましたね」
「何か問題でも?」

 二人は困った顔をして「実は……」と言った。

「殿下に先ほど急な用事が入ったとのことで、あなたに会うのが遅くなってしまうそうなんです」
「その間私たちとお話して、時間を潰してもらえますか?」

< 45 / 82 >

この作品をシェア

pagetop