前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ

28、炎と共に

 追ってくるかと思えば、彼は部屋に残ったままだった。

 ルティアは不信感を抱きつつ、扉を押して外へ出る。

(……?)

 何か変な臭いがする。煙たくて……

(まさか……)

 ルティアは走って先を進む。そして想像通りの結果に頭の中が真っ白になる。だがすぐに最悪の結末を思い浮かべて、先ほどの部屋へ取って返す。

「リーヴェス!」

 ルティアは彼が自決していると思った。だが彼は祭壇の奥で腰掛け、戻ってきたルティアに弱々しく微笑んだ。とりあえず生きていたことにホッとするも、激しい怒りが湧いてくる。

「あなた、何を考えているの!」
「賭けだったんです。あなたが私と共に人生をやり直してくれるならば、この城から出て、生きていく。けれどあなたが私を拒絶したら――炎と共に、死のうと」

 彼は立ち上がると、台の上に置かれていた蝋燭台を掴み、長椅子の方へ投げ捨てた。あっ、と思うも、いくつもの小さな灯はあっという間に材木へと乗り移り、炎を大きくしていく。

「何をしているの、やめて!」

 リーヴェスは炎を消そうとするルティアの腰を引き寄せ、「無駄ですよ」と言った。

「助けは間に合いません。あなたはここで私と一緒に死ぬんです」

 彼はどこかうっとりとした表情でルティアの頬を指先で撫でていく。

「あの時はあの男が火をつけた。私は間に合わず、あなたの亡骸は炎と共に連れ去られた。だけど今度は――今度こそ私が、あなたを連れていくんです」
「リーヴェス……」

 彼はすでに狂っている。前世の記憶が、今のルティアの態度がそうさせた。

 逃げることは許さないと、リーヴェスの狂気がルティアの心を絶望へ突き落としていく。

(もう、ここで彼と死ぬしかないの……?)

 少しでもテオバルトと生きたいと思った罰なのだろうか……。

(テオバルト様……)

 城が燃えれば、自ずと騒ぎになり、自分の死も確認されるだろう。いや、死体は残らないかもしれない。テオバルトのことだから、まだどこかで生きているはずだと、国中を、世界中を飛び回ってでも、ルティアを探そうとするだろう。

「アリーセ……」

 全身の力が抜けて、ルティアはリーヴェスに抱きとめられる。彼の掌が頬に当てられて、口づけされそうになっても、もうどうにもならないと諦めかける自分がいた。炎は壁を蛇のように這い上がり、天井まで届いていた。ぱきぱきと音を立てて、木くずが落ちてきて、大きな天井の柱も今にも崩れそうで――

「危ないっ」

 ルティアは気づけばリーヴェスを突き飛ばしていた。自分が逃げることは叶わず、頭を庇って、轟音と衝撃に耐えた。

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