前世わたしを殺した男は、生まれ変わっても愛を捧ぐ
「――っ……、アリ……、――アリーセ!」

 ふっと意識が戻り、必死で前世の名前を呼ぶリーヴェスの声が耳に届く。一瞬前世に戻ったのかと錯覚するが、下敷きになって気を失っていただけだ。

(まだ、死んではいない……)

 指先に力を入れれば、弱々しくもきちんと動く。ルティアは奇跡的に生きていた。落ちてきた柱が重なり合い、ルティア一人だけを生かす隙間ができていたのだ。けれどここから抜け出すことはできないと悟った。

「アリーセ! 頼む! 私を残して死なないでくれ!」

 一緒に死のうとしたくせに死ぬなとは一体どういうことだ。

「リーヴェス……わたしはもう、助かりません……あなただけでも、ここから出て……早く……っ」

 彼は何と言ったか。また何かが焼け落ちる音で、かき消されてしまった。

(まるであの時と同じだわ……)

 前世も、今世も、自分は炎に焼かれて死ぬ運命なのだと、神に命じられている気がした。

 酷い、とは思わなかった。それが神の思し召しならば受け入れよう。ただ……。

(お返事もできず、ごめんなさい。テオバルト様……)

 せめて最後に一目だけでも――

「ルティア!」

 テオバルトのことを考えていたからか、彼の声が聴こえた気がした。

(そんなはず、ないのに……)

 朦朧とした意識の中、不意に圧迫感に押しつぶされそうだった身体が少しだけ楽になった気がした。もう半分死にかけて、痛みから解放されようとしているのか。

(でもまだ……くるしい……いたい……)

 熱い何かに手首を掴まれ、身体を抱き起されて……。

「しっかりしろ! こんなところで死んだら、地獄だろうと天国だろうと引きずり下してやるからな!」

 鼓膜が破れるのではないかと思うほどの大声で怒鳴られ、ルティアは眉を顰めると共に、何だか笑いそうになってしまった。

(なんて、強引な人なのかしら……)

 死者を生者の世界へ連れ戻そうとするならば、どちらの番人も困るだろうに……。

(それにしても、こうして抱かれていると、なぜかすごく、落ち着く……)

 懐かしい、と思ってしまう。たしか以前もどこかでこうして……。

「俺はあなたを許さない」

(この台詞……)

 眠気と息苦しさに逆らいながら、目を薄っすらと開ける。きっと自分が憎くてたまらない表情をしていると思ったのに、男の顔はルティアに告げていた。

(あぁ、そうか。わたしはあの時……)

 炎に包まれ、テオバルトを見つめながらルティアは今度こそ意識を失った。

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