可哀想な猫獣人は騎士様に貰われる
「……俺は、君と似たような産まれだ」

 そうして告げられた言葉に、はっと息を詰める。

 顔を伏せたまま黙り込んでいれば、オーランドはしばし間を置いてから続けた。

「違ったのは、王子の影として重宝されたこと。公には全く関係のない家の養子となったが……兄が、俺を血の繋がった弟として扱ったことか」
「……あの方ですか?」
「そうだ」

 道中に会った男を指して問えば、あっさりと肯定が返ってくる。

 つまりオーランドはジルと同じ私生児か、正妃ではない女性から産まれた望まれない子だった。

「俺を助けようとした獣人は奴隷なのかと周りの者に聞いてみれば、皆が口を濁した。その反応でだいたい予想がついて……気付けば目で追うようになっていた」

 初めは、同じ立場でありながら悲惨な扱いを受けるジルへの同情心で。それから、他国より数歩遅れた価値観で彼女を貶めるクロエたちへの軽蔑もあった。

 だが何よりも、自分の境遇を忘れて他人を助けようとしたジルのことが、気になって仕方なかったと彼は言う。だからこそ何度も助けたし、口先だけのレジーに身柄を引き渡すことも拒否したと。

「陛下に──兄上に、今回の報奨としてジルを貰いたいと言った」
「え、わ、私を?」
「諸々の事情で王女として引き取ることはできない。……ただのジルとして、そばにいてほしい」

 名前、初めて呼ばれた──何となくこそばゆい気分に陥ったジルは、裾からはみ出た尻尾をくるりと丸めて、ちらりとオーランドを見遣る。

「オーランド様は、その……貴族なのでは? 私を置くことで、何か言われたり」
「言われない。先程も言ったが、アゼリアのように獣人が貶められることはないし、……俺は貴族でない娘に求婚しても問題ない立場にある。寧ろそうした方が兄上の迷惑にもならん」
「きゅ、求婚っ?」

 思わず声が裏返ってしまった。

 耳と尻尾をぴょんと上向かせて驚くジルに、オーランドもまた疑問符を浮かべる。

 やがて理解した様子で「ああ」と呟き、おもむろに片膝をついた。

「伝わらなかったか。──ジル、君を伴侶に迎えたい。ずっと君が欲しくて、触れたくてたまらなかった」

 先程の遠回しな表現とは打って変わって、これまたストレートすぎる物言いにジルは卒倒しそうになる。

 他人から純粋な好意を向けられた経験のないジルがおろおろとしていれば、オーランドが彼女の手を掴み、ぼふっとベッドに押し倒してしまった。

「オ、オーランド様っ?」
「戸惑うのは当然だ。断ってくれても良い。その場合でも、新しい住居を見付けるまではここで過ごしてもらって構わない」
「え、あの、す、少し、考えさせて」
「良いぞ。だが結論は早めに出してくれ。すでに我慢は限界だ」

 何の我慢だとは聞けずに、ジルは真っ赤な顔でこくこくと頷く。彼女の慌てっぷりを間近で見下ろした彼は、そこで初めて小さく笑ったのだった。

「よい返事を期待してる」

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