身代わり婚約者との愛され結婚
 だからこそ、『夢の中』だけで終わらせねばならないのだ。



“……それにしても”

 怪しい。
 心の底から怪しい。

“いきなり結婚? このタイミングで?”


「ジョバルサン、いる?」
「はい、お嬢様」

 なんだかどっと疲れた私が応接室のソファにもたれながらそう声をかけると、すぐに執事長のジョバルサンが入室してくる。

 
「お話はいかがでしたか」
「私のこの姿を見て気付かない?」
「そうですね、今日は疲れがよくとれるように湯殿にカモミールのオイルを入れるよう手配しましょう」


 ジョバルサンとの軽口で少しだけ元気が出た私が姿勢を正すと、ジョバルサンもその冗談めいた雰囲気を消して。


「ベネディクトから婚姻の申し込みをされたわ。それも今すぐにでも、と」
「今すぐでございますか? それは流石に……」
「えぇ。おかしいと私も思うの」

 彼には何かがある、そう思ったのは私だけではなかったらしく、そこまで聞いたジョバルサンはすぐに腰を折った。


「調べさせましょう」
「えぇ、お願いね」


 簡潔かつ心強いその一言に、私はそっと冷めてしまった紅茶を一気に飲み干したのだった。
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