身代わり婚約者との愛され結婚

16.その程度、という程度

「アルベルティーナお嬢様、ご婚約者様の代理の方がいらっしゃっております」
「通して」

 今日も今日とて毎月の恒例である婚約者との親睦を深めるための茶会。
 
 約束の時間十分少し前に声をかけられた私は、なるべく平静を装ってそうメイドのレイチェルに返事する。


“良かった、レヴィンだわ”


 先日ベネディクトが突然訪問してきたせいで、もしかしたら本物の婚約者が来るのでは……と不安だったらしい私は、『身代わりの婚約者』であるレヴィンが来てくれたことに安堵した。

“身代わりの婚約者が来たことに怒るのではなくホッとするなんてね”

 そのあまりにもちぐはぐで滑稽な感情が自分のことながらに少し可笑しく、くすりと笑みを溢しながら出迎えると、大好きな陽を透かしてキラキラと輝く濃紺の髪が視界に飛び込んできた。


「本日も花のように麗しいティナに、こちらを。貴女と比べたら見劣りしてしまいますが」
「もう、いつからそんなことをスラスラ言うようになっちゃったのかしら」

“初めてここに身代わりで来た時は、罪悪感からかまるで死人のように真っ白だったのに”
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