身代わり婚約者との愛され結婚
 ふわりと溢れるこの心をスターチスの花束で隠すように、私は抱き締めたまま椅子に腰かけたのだった。


 

「ねぇハンナ、花言葉の本が欲しいのだけれど」

 なるべくしれっとして見えるように必死で声のトーンを抑えながらそう言うが、どうやら全部お見通しだったのだろう。

「こちらでよろしいでしょうか」

 専属侍女であるハンナからあっさりと手渡されたその分厚い図鑑を受け取った私はその重さに少々引きつつもハンナにお礼を言った。


「あ、ちなみにスターチスは真ん中より少し後のページをご確認ください」
「もう知っちゃってる!」

 なんて、すぐ後に思い切りツッコむことになったのだが。


 そんなことをしていると、突然ノック音が響く。
 誰だろうかとハンナと顔を見合せながら中へ促すと、入ってきたのはジョバルサンで。

「ご依頼の調査結果が出ました」
「!」

 その一言に、さっきまでの空気が一変しピリリとひりついた。


 手渡された報告書に目を通す。

 
「ギャンブルで作った借金、ねぇ」

 そこに書かれていた、あまりにも典型的で予想通りな答えに思わず乾いた笑いが込み上げた。

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