身代わり婚約者との愛され結婚
 口元をきゅっと結んだままのレヴィン様とは違い、穏やかな微笑みで柔らかな表情のクラウリー伯爵。

 それでもその表情はどこか血筋を感じさせ、そして髪色も同じだった。

 きっと伯爵の髪も太陽の下ならば濃紺に見えるのだろう。


「では、私たちはこれで」
「え? あ、はい。どうぞお楽しみください」

 あっさりと挨拶を終えたクラウリー伯爵とレヴィン様がくるりと背中を向ける。

 会話はあまりなくともそれなりの時間を一緒に過ごしたせいか、余りにもあっさりとしたこのやり取りに心の距離を感じ――


“……これが、本来の距離ね”


 そして彼がただの身代わりで来ていただけだと改めて突きつけられたようで少し胸の辺りが重くなる。

“と、いうか”

 胸じゃない。
 いや、胸もだが胸だけじゃない。

「く、苦し……」

 うぷ、と思わず口元を押さえる。

“だめ、主役の私がこんな会場のど真ん中で倒れるだなんて許されないわ”

 ぐらりと視界が暗くなり額に冷や汗が滲む。
 けれど今日が成人、夜会デビューの日なのだ。
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