14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 以前の私も観に来たことがあるが、一度も誘われなかった。イメチェンは本当に褒めてほしい人には叶わなかったのに。

「ねえ、行こうよ」

 しつこさに眉根を寄せたとき、彼らの背後に大和さんの姿を認めた。

「俺の彼女に何か用ですか?」

 至極丁寧な口調に、背筋がゾクッとなりそうなほど冷たく感じる。

 彼らも突然の男性の出現に「え? いや、ひとりかと思って」と、しどろもどろだ。

「行こう」

 大和さんに手を握られ、横のドアを開ける。

「あ、あやめに」

 振り返ると、あやめと目と目が合い苦笑いを浮かべ「バイバイ」と手を振られた。

 あとで慌ただしい別れだったので、メッセージを送ろう。

 ライブハウスを出ても手は握られていて、そのまま近くのコインパーキングに向かう。

 下北沢の街はこれから食事か飲みに行くのか、若者たちで賑わっている。

 楽しそうな若者たちとは反対に、大和さんはひと言も話さないので困惑している。

 彼の車の助手席の前で立ち止まると口を開く。

「あの、あやめに酷いこと言われましたか?」

「え? 酷いこと? いや、どうして?」

「ひと言も話さないから……」

 大和さんがふっと口元を緩ませる。

「ちょっと考え事をしていただけだ。当惑させてしまったみたいだな。すまない。夕食は何を食べようか?」

 助手席のドアを開けられて、乗り込む。
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