14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 実はその缶は今でも持っている。

 クッキーは甘かったが、おいしいと感じた。

「ありがとう。おいしいよ。紬希も食べて」

「ううん。いいの。家にあるから。これは大和君のクッキーよ。綺麗な出来上がりのものだけを入れてきたんだ」

「じゃあ、あとは家でゆっくり食べるよ」

 食べたくないではなく、もったいないと思ったのを覚えている。

 うれしい気持ちのまま自宅へ戻った。


 その日、仕事から帰宅した母に再婚と同時にニューヨークへ行くことになったと告げられた。

 幼稚園の頃に事故で亡くなった父の代わりに光圀商事の秘書課でずっと働いていた母は、そこで創業者一族の男性、忽那氏にプロポーズされた。

 忽那氏はニューヨーク支社の支社長として転勤することになったと話された。
 
 今まで苦労をしていた母が幸せなら忽那氏と結婚してもかまわない。将来英語を話せた方が役立つだろうし、特に日本にいたいと固執することもなかったから、ニューヨークへ行くことは特に嫌だと思わなかったのだ。

 だが、知り合ったばかりだが、紬希と会えなくなるのはなんとも表現のできない気持ちに襲われていた。
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