14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 すると、俺にふいをつかれたせいで口に入れたジェラートが気管支の方へ行ってしまったようで激しい咳をする。

「ゴホッ、ゴホゴホ……コンコン」

「大丈夫か?」

 タイミングが悪かった。

「は……はい。ゴホゴホ……」

 彼女は激しく咳き込んだ拍子に黒縁眼鏡が顔から外れて床に落ちた。

 紬希の顔をよく見るチャンスだ。

 彼女が屈んで眼鏡を取る前に席を立ち、拾った。

「あ!」

「どうぞと、言いたいところだが……」

 ここぞとばかりに紬希へ顔を近づけてまじまじと見つめる。

 一瞬ポカンとした彼女だが、黒い瞳と視線がぶつかった瞬間、驚きの声を上げてうしろにのけぞった。

「え? きゃっ!」

 彼女が倒れないように腕を掴んで引き寄せた。

「まったく……、意外とそそっかしい?」

「……ありがとう」

 目と目が合った刹那、中学生の頃の彼女とオーバーラップした。

 綺麗なのにどうして地味な姿でいるんだ?

 履歴書の写真も同じだから、この見合いでわざわざ変装したわけではなさそうだ。

 紬希は顎をツンと上げ、うしろでひとつに結んだ黒髪に手をやる。

「そそっかしいのではなく、急に顔を近づけるので驚いただけよ」

 高飛車な態度を見せようと一生懸命な彼女がかわいくて思わず口元が緩む。

 まったく、もうそろそろ決着をつけようか。紬希をからかうのは楽しかったが。
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