14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 ぼんやりしているうちに、総支配人の案内で数歩先を歩いていた大和さんが振り返る。

「紬希、どうした?」

「え? ううん」

 待っている彼の隣へ歩を進めた。


 二十分後、私はひとり露天風呂の湯船に浸かっていた。

 総支配人に最上階の五階にある特別室へ案内されたあと、一階の女性専用露天風呂でのんびり景色を眺めている。

 外は薄暗くなってきて、見えていた富士山がもう少しで闇にとけていくところだ。

 大和さんも隣の男性専用の露天風呂で同じ景色を堪能しているだろう。

 温泉の効能は筋肉痛にも効くらしい。

 スワンボートを漕いだのを見越したプラン? まさかね。

「んー、いい気持ち」

 脚を揉んだり、両腕を上げたりしてストレッチをすると、リラックスした気分になる。

 露天風呂は一年前、あやめと伊勢志摩へ旅行したとき以来だ。

 ゆっくり入って来いよと言われているが、外は真っ暗になり時間も結構経っているはず。

 露天風呂から出て体を洗い、タオルを巻いて脱衣所へ歩を進める。

 入るときに女性スタッフに紅葉(もみじ)色の浴衣を渡されていた。

 浴衣が着られなければ、電話で連絡してくださいとのことだったが、帯も簡易的だったので、きちんと身に着けて脱衣所を出て五階の特別室に向かった。

 紅葉色の明るい浴衣で、てれんとした安っぽい生地ではない。

 さすが会員制ホテルね。
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