14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 あ……。ヘアサロンへ行ったことをすっかり忘れていたわ。

「髪……」

 大和さんの視線が髪から顔へと移動する。

「……はい。変身してみました。そ、そんなにジッと見ないでください。恥ずかしいです」

「それが本当の紬希?」

「そうかと……あやめには二年前と変わっていないと言われました。以前の方が良いと思いますか?」

「なんて言ったらいいのかわからない」

 想像もつかなかった答えに、小首をかしげる。

「でも、目立つようになったのは確かだな。宮崎あやめは?」

 ふいに話が変わって困惑する。

 お世辞でも綺麗になったとか言ってくれればうれしいのに……。あやめといい、大和さんといい、女心がわかってないんだから。あやめは女だけど。

「……あやめは中にいます。どうぞ。入って大丈夫だそうです」

 先ほどテツヤさんと写真を撮っていた女性ふたりが出てくる。

「あの人、かっこいい。芸能人みたい」

 などと話す声が耳に入ってくる。

「ね、声かけてみようか」

「でも彼女連れじゃない」

「違うかもよ」

 女性ふたりは私たちから二メートルほど離れたところで立ち止まり話している。

「まったく」

 若干苛立たしさのある声色で呟いてから、大和さんの手が私の肩に回った。

「行こう」

「え? は、はい」

 肩を抱かれて歩き始め、ライブハウスのガラスのドアを進む。

 背後で女性ふたりの残念そうな声が聞こえてきた。
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