貴方はきっと、性に囚われているだけ

帰り道

 学校の正門を通り過ぎ、道なりに進んでいく。琉斗は帰り道も聞かずに一葉の家のルートを歩き進んでいった。
「あの、道わかるんですか?」
「ん? ああ、君の匂いを追えばおのずとね」
 匂い? 一葉は自身の袖の匂いを嗅いでみたが、それほど匂わない。αにはΩの匂いでもわかるのだろうか――。そう思っていると、琉斗がクスクスと肩を震わせた。
「ごめんごめん。本気にしないで。君を運命だと思った日、たまたま帰り道で君の後ろ姿を見かけてね。帰り道が同じ方向だったから覚えてるだけなんだ」
「そうでしたか」
 てっきり後を付けられたのかと不安になったが、表情を見るに本当のようだ。この先の角を曲がるのだが、その後からは道がわからないと言っている。一葉はそれならばと、琉斗へ向き直った。
「此処までで大丈夫です。後は自分で帰れますから」
「君が良くても、僕は良くない。君の具合も良くないんだ。家まで送らさせて欲しい」
「そう言われても……」
 琉斗の気持は有難いが、一抹の不安が残る。どうするべきか……。
「君を害することは絶対にしない。どうか、僕に君を家まで送らせて欲しい」
 真っすぐな視線で見つめられ、一葉は思わずコクリと頷いてしまったのだった。



「ここで大丈夫です」
 結局、家の前まで送って貰うことになってしまった。一葉は玄関前で振り返り、琉斗にお辞儀をした。
「ありがとうございました」
「いやいや。僕の我が儘に付き合ってくれて、此方こそありがとう」
 微笑まれ、思わず頬が紅潮していく。まじまじと顔を見ていなかったが、ここまでかっこいい人がいるのが凄いと思った。真っすぐ通った鼻筋に、長く儚い睫毛の下に隠れる薄い青目。端正のとれた顔のパーツ。自分には不相応な人だと思えた。
「また明日も、一緒に帰ろう」
「えっ」
「君の教室に迎えに行くよ。もし僕の方が遅かったら、教室で待っていてくれ」
 有無を言わさぬ物言いに、一葉はどう返答するか悩んだ。今ならまだ断れる。教室でも言われただろう。気を付けた方がいいと。
「あの、そのことなんですが……」
「僕が一緒に帰りたいんだ。駄目かい?」
 首を傾げながら眉尻を下げられると、断ることなんて出来ない。一葉はまたしても小さく頷いてしまった。
「ありがとう。じゃあ、また明日」
 そう言って、琉斗は帰って行った。一葉は鍵を開け家に入り、はあ、と深く溜息を吐いたのだった。
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