ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 元から痩せていて食べないと体重の維持が出来ない私にとって減量だけなら楽だ。食べなければいい。だが気力体力を維持したまま体を絞るのは辛かった。
 トレーニング中は、やらなければ()られると思う程、中山さんは私の心と体を追い込んだ。

 四週間後、私は中山さんが目標とした数値を私が出した時、中山さんはこう言った。

「今の俺はお前を守る事が仕事。だから俺の命と引き換えに必ずお前を守る。俺の命はお前にくれてやる」

 そう言って、トレーニングが始まってから初めて、中山さんが笑った。
 そして、横たわったまま、ただ中山さんを見上げていた私の上に覆いかぶさって、私の足の間に割り入って、顔を近づけて、「お前が欲しい」と言った。

 この状況なら女は応じる。
 本能がこの男を求める。

 そう思った。だが私は気づいていた。この部屋に昨夜から誰かがいる、と。
 私は中山さんから目線を外し、誰かが潜んでいる方向を見て、「嫌です」と言うと、中山さんは破顔してこう言った。

「まーつーなーがー! 俺の負け! お前が言った通りだった!」

 笑いながら私から離れた中山さんの背後から、松永さんが出て来た。
 ぐったりしていて良く見ていなかったのもあるが、どこからどう出て来たのか、私には全く分からなかった。

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