ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午後二時三十二分

 目覚めるとまた私は中山さんの腕の中にいた。
 また頭を引っ叩かれるのは嫌だなと思ったが、中山さんの背後に松永さんがいない。

「松永はまた落とした」
「ええー」

 薄く笑いながら「嘘だよ」と言う中山さんは、夜に葉梨が来ると言った。

「俺の葉梨将由くんがお世話になっているようで」

 ――俺の、とはどういう意味だろうか。

 私の疑問を見透かしたかのように、中山さんは答えた。「高校生の葉梨を駅でスカウトしたのは俺」と言った。
 続けて、葉梨にこの仕事をさせる為に動いたが、体格が良くて骨太だから無理だったと言う。
 葉梨の能力はこの仕事に向いているが、骨格の問題ならば仕方ない。

「葉梨は有能ですね」
「だろ? いろいろ教えてあげて」
「でも、私が教える必要は無いと思いますけど」
「そんな事ない」

 そう言うと、私の肩を抱く腕に力を込めた。

「松永はいないから、守ってくれる人はいない」

 そのまま私はシーツに沈められ、耳元で囁かれた。

「お前が欲しい」

 私は中山さんの顔に手のひらを添わせて、指先で頬をなぞった。少しだけ力を込めて顔を寄せると、中山さんは顔色を変えた。
 想定外の同意のサインに中山さんは私から離れようとしたが、もう遅い。

「痛っ!」
「バーカバーカ!」

 中山さんはいつの間にか部屋にいた松永さんに頭を引っ叩かれて、今回のしょーもない遊びは八戦目で終わった。
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