ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 五分程が経った時だろうか。ドアがノックされ、葉梨がドアを開けると、デカい葉梨に隠れている女性の足が見えた。葉梨は応接間に引き入れ、妹さんは私に頭を下げている。

 ――官僚がっ! 地方公務員に頭を下げてる!

 私は彼女よりさらに腰を曲げて頭を下げた。
 そして顔を上げて妹さんを見ると、彼女の表情は落胆の表情を消す瞬間だった。

「はじめまして! 加藤奈緒です!」
「はじめまして。妹の麻衣子(まいこ)です。兄がお世話になっております」

 そこにいる麻衣子さんは小柄な女性で、黒髪でハーフアップの髪型にネイビーのアンサンブル、千鳥格子のフレアースカートを着ている。帰宅して間もない割にはメイクが綺麗だ。グロスは塗り直したのだろう。そして髪は整髪料の香りが漂う。

 ――もしかして麻衣子さんは……。

 麻衣子さんの横にいる葉梨へちらりと見ると、目をそらした。

 ――先輩を、岡島だと思ったのか。だから……。

 これは麻衣子さんが岡島に恋をしているとか、恋をしているとかなのだろうか。ああ、いけない。私は想定外の事が起きて動揺したのだろう、同じ事を二回も心の中で呟いてしまった。

 霞が関の官僚と警察官なんて身分差があるだろう。岡島は恋人に一途で溺愛っぷりはなかなかだが、見た目はチンピラだ。最近は令和最新版インテリヤクザになっているが、油断するとチンピラに戻っている。
 岡島はお嬢様が恋をする相手ではないだろう。

 だが私は思った。
 お嬢様、身分差、一途、溺愛、チンピラ。そこから導き出されるのはこれしかないな、と。

『お嬢様が恋した相手はヤクザ!? 一途なカレの溺愛に甘くとろける官僚は今夜もコワモテなカレに愛されちゃいます!』

 TLコミックにありそうなタイトルが頭に浮かんだが、現実にヤクザと霞が関の官僚が関係を持ったらいろいろとマズいだろうなと思った。

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