ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 十月末、葉梨が私との予定をキャンセルした理由は岡島との飲み会を優先したからだったが、その飲み会に山野(やまの)花緒里(かおり)が来ていて、葉梨はフォーリンラブしたという。

 山野は小さくて可愛い女の子だ。
 大人しくて自己主張しない従順な子で、女性警察官の中では珍しいタイプが故に、同業からは遊び目的ではなく真剣に交際したいとアプローチを受ける子だった。だから松永さんに恋をした時の山野の変わり様には誰もが驚いた。

 私はあの時、山野の恋心を知ってどうにかしてあげたいと思った。
 恋する女の子の周りが見えなくなってしまう危うさを孕んだ真っ直ぐな気持ちは、私には眩しかった。私だってこんな風に後先考えずに行動出来たら、自分の気持ちを相澤にぶつけられたらどんなに良いだろうかと思った。
 だからなのか、山野がいつまでも諦めない姿に私は絆されてしまい、体の関係で良いのならそう伝えれば良いと言った。松永さんは基本ワンナイトだ。それで山野が満たされるなら、諦めがつくのなら、それで良いじゃないかと思った。

 だが、松永さんからは叱責された。
 私は納得出来なかった。山野は二十六歳だ。立派な大人だろう。分別のつく大人だ。私に何と言われようと、それを選択したのは山野自身だ。私には関係無いと思って、そう口にした。
 その瞬間、私は髪の毛を掴まれ、押し倒され、馬乗りになった松永さんに手足も拘束された。私に顔を近づけた松永さんは見た事のない目をしていた。怒りの先にある増悪の目だった。

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