ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午後一時二十分

「タクシーじゃないんだからさ」

 私は今、須藤さんとデパートに行く為に須藤さんの私有車に乗っている。ただ、助手席は嫌で助手席の後ろの席に座ったのだが、須藤さんはお怒りのご様子だ。

「助手席は別の方の専用席かと思いまして」
「…………」

 ルームミラー越しの鋭い視線を受けながら窓の外の街並みを眺めていると、私はある事に気づいた。今日はクリスマス・イブ――。
 何が楽しくてクリスマス・イブに上司のチンパンジーとデパートに行かなくてはならないのかと思ったが、食事を奢ってくれるとなれば行かなくてはならない。燃費の悪い私は食費がかかるのだ。

「加藤さ、電話の声、聞こえてたんでしょ?」
「お電話をされていたんですか?」
「……まあいいや。俺さ、女にプレゼント渡したいんだよ。お前に選んで欲しい」

 須藤さんは恋人に何をプレゼントすれば良いのか本気で分からないのだろう。だが恋人にしてみれば、別の女が選んだプレゼントなどムカつくだけだと思い至らないのか。

「ご自身で選ばれた方が良いですよ。もしくは一緒に行くか」
「会う時間はデパートは閉まってる」

 恋人に欲しい物を事前に聞いておけば良かったじゃないかと思うが、相手の女性は遠慮したという。
 恋人ではないのか、そう尋ねると妙な間があって、「違う」と言った。

「もしかしてキャバクラのお姉ちゃんですか?」
「お前さ、引っ叩くよ?」

 キャバクラのお姉ちゃんではないのか。
 お姉ちゃんでもなく、クリスマスプレゼントを遠慮する女性となると、これしかないだろう。

「須藤さん、不倫はダメですよ」
「独身だよ! 馬鹿!」

 その相手の女性の事を話してくれない限りはプレゼントを選べないのだが、須藤さんは話してくれない。
 須藤さんとは四年前から特別任務の時に一緒に仕事しているが、直属の部下となって一年が経つ。
 だが、まだ私は信用されていないようで少しだけ悲しくなった。

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