ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第26話 ピアスと赤と白と

 午後二時五分

 デパートの駐車場からエレベーターで降り、店舗までの長い廊下を歩いてるが、私はふと思った。
 私はパパ活疑惑を晴らす為にわざわざ署に向かい、謝罪パフォーマンスをしてあげた。その分の礼は食事だが、食事なら署の向かいにある客単価がえっらい高いファミレスで良かったのだ。
 なのに須藤さんの恋人らしき女性へのプレゼントを選ぶ為にデパートまで連行されている。クリスマス・イブにタダ働き――。
 私は納得がいかない。何か私も買って欲しい。ならば須藤さんに揺さぶりをかけてみようと思い、私は早歩きで前を歩く須藤さんを呼び止めた。

諒輔(りょうすけ)さん」

 これは電話の向こうの女性が言っていた。
 甘えた声では無かったが、優しい女性の声で、須藤さんは自分の名を呼ばれて照れていた。

「加藤」
「なんですか」
「やっぱり聞こえてたんじゃねえかよ」
「んふふ、諒輔さん、私もプレゼント欲しいです」

 眉間にシワを寄せる須藤さんとにらめっこしていると、須藤さんの肩越しに見覚えのある二人に気づいた。令和最新版インテリヤクザとお洒落な熊――。
 私の視線の方向へ振り返った須藤さんも気づいたようで、二人に話しかけようとしたものの、二人は背を向けて走り去った。

「逃げやがった」
「ふふっ、どんな噂話になりますかね、諒輔さん」
「…………」
「諒輔さん、私はピアスが欲しいです」
「知らないよ。自分で買えよ」
「岡島が流す噂話で、また上に絞られたいですか?」
「殴るよ?」
「なら、パワハラで処分されます?」
「一万までだ」

 ――セコいな。年収六百万超えのくせして。

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