ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 私は今、ジュエリー売り場に向かっている。

 若干キレているチンパンジーに大ぶりのピアスを買ってもらおうとしている。須藤さんの恋人にはネックレスでも選ばせれば良いだろう。

「諒輔さん、予算アップして下さい」
「下の名前で呼ぶのやめて」
「どうしてですか」

 須藤さんは大きなため息をついて、恋人の話をしてくれた。
 出会ったのは半年前で、むーちゃんの知り合いの紹介だったという。須藤さんは女性の下の名前で呼んでいるが、女性は須藤さんをずっと名字で呼んでいた。
 だが午前中のあの電話で、恋人が初めて『諒輔さん』と呼んでくれたと言う。

 ――私のせいでスイートなメモリーが台無し。

「付き合ってるわけじゃないんだよ」
「お友達?」
「うん。趣味が同じでね」

 須藤さんは好意を寄せていて、何度か好意を伝えてはいるが、女性は趣味仲間として自分を見ていた。彼女はそれ以上の関係を望んでいないようだが、名を呼んでくれたから、想いを受け入れてくれたのだろうと須藤さんは言う。
 頬を緩ませて女性の話をする須藤さんを微笑ましいと思った。それに須藤さんは私を信頼してプライベートな話をしてくれたのだと思うと、私は嬉しかった。力にならなくてはと思った。

「須藤さん、プレゼントはダメです」
「なんで?」
「趣味に合わないとか、金銭感覚が合わないとか、いろんな問題があります」
「うーん、でも……」
「花束にしましょう」
「花?」

 薔薇の花束は本数によって意味が変わると聞いたことがある。花屋に行って、聞いてみれば良いと思った。

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