ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午後二時五十分

「タクシーかよ」

 須藤さんは署に戻らなくてはならなくなり、食事はキャンセルとなった。
 今、須藤さんが運転する須藤さんの私有車に、岡島と葉梨、そして私が乗っている。助手席に葉梨、運転席の後ろに岡島、助手席の後ろは私だ。
 白い薔薇の花束を抱える私はルームミラー越しに須藤さんの視線を受けている。
 ラッピングは赤と濃緑、ゴールドのリボンでクリスマスらしい花束になった。

 葉梨は、『お相手の女性の心が決まっていないのなら、白い薔薇が良いと思います』と言った。もしダメだった時に、『須藤さんがダメージを負わないで済むという利点もあります』と笑っていた。

 確かにそうだ。出会えて嬉しいという気持ちを伝えただけだと逃げ道が出来る。赤い薔薇ではそうはいかない。そこまで気が回るとは葉梨は凄いなと思った。

 ◇

 自宅のある路線の駅前で降りた私に、須藤さんは車を降りて私の元へ来た。
 謝罪パフォーマンスをさせた事、デパートに連行した事、なのに結局食事は無しになった事を詫びた須藤さんは、食事とピアスは日を改めてと言い、薔薇の花束の礼を言って車に戻った。

 ――パワハラしなければジェントルポリスメンなのに。

 花を真剣に選んでいた須藤さんの姿は、想いを寄せる女性へのひたむきな気持ちが溢れていた。
 私は羨ましく思った。

 クリスマスの装飾がされ、クリスマスソングが流れる賑やかな駅前に独り残された私は、去りゆく男三人が乗った車を見送りながら、少しだけ切なくなった。
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