ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 私は今、来店は三度目のとある店の前にいる。

 ――パブラウンジ エスパシオ・ネグロ。

 葉梨がヒゲを剃って来なかった事を後悔させると中山さんは言っていたが、これかと納得した。

 ――葉梨は後悔で済むだろうか。

 当の葉梨は初来店でこのエリアは仕事で訪れる事が無い事から、立地や店名、監視カメラや非常口などの必要な情報を頭に入れているようだ。もっさり頭のガラの悪い葉梨は余裕が無いように見える。可哀想に。

 中山さんが店のドアを開けると野太い声がした。

「いらっしゃーい」
「おう、久しぶり」
「あらー、カズマちゃん、おひさー」

 ――野太い声が少し高くなった。

 中山さんはこの店では『カズマ』と名乗っている。私は初来店時にママから『ゴボウ』と命名されたが、葉梨はどうなるだろうか。
 ちらりと葉梨を見ると絶望顔をしていた。無理もない。綺麗なお姉さんのいるクラブだと思ったのだろう。だがドアの向こうは魑魅魍魎(オネェさま)が蠢く暗黒空間(エスパシオ ネグロ)だったのだから。

「やっだぁー! イイ男がいるじゃなーい!?」
「うん、脱がすともっとヤバいよ」

 ――将由坊ちゃま、貞操の危機。

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